白い背中

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 今にして思えば、彼女の白い毛を見つけたのは、わたしのほうが先だったかもしれない。彼女の背中に、ピッとなにかあったので、わたしは無意識につまんだ。あれは、意識する前は、糸くずと思って納得していたけど、あの毛は確かに、一瞬だけ、彼女の肌にしがみつき、多少、隆起させた。取れたそれをわたしはぷいと捨ててしまって、彼女はぎょっとしたように振り返った。わたしはなんでもないって答えたんだった。  彼女からしてみれば、わたしは知っていて、知らないふりをしていると、そう思い込んだのだろう。それなら、わたしにだけ打ち明けた理由になる。  見てほしいものがある。そう彼女が言って、ブラウスのボタンに手をかけたとき、わたしは、タトゥーのことだと錯覚した。そういう子たちが多かったから、見えないところにお互いのことを書き付けておくのだ。それが愛の証明になるんだって。  わたしはとても憂鬱だった。彼女への気持ちは本当だったけれど、針が恐かった。何度も何度も、自分の体に突き刺さなければならないなんて、つらかった。かさぶたができるんだって。嫌がるわたしに彼女はなんと言うだろう。愛がないと言うだろうか。泣いてせがむだろうか。ほかの子たちみたいに、そんな姿、見たくなかった。  そういう考えがいっぺんに浮かんできて、わたしは気絶しそうだったけど、じっとしていた。彼女の美しく無駄のない体の起伏を、恥ずかしいくらいじっとりと見てしまう。彼女はずるい。こんな美しいものを隠し持っていて、自分では恥ずかしい気持ちもなく、いつだって眺めることができる。好き勝手にすることができる。
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