第1章 華麗なるダイブ

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 この病院で目を覚ました時点でなんとなく察してはいたが、思った通り診察室は薄暗く、精神科のイメージに反して沢山の薬品が棚に陳列されていて、物憂い雰囲気でとても清潔感があるとは思えなかった。  病院なのだから清潔感は重要だし、ここは精神科なのだから物憂い雰囲気というのも患者が可哀想だろう。 「あぁ。良立暮さん、気づいたとは思うけどここしばらく使ってなかったから結構汚いよ」 「じゃあ掃除して下さい」 「うん、後で看護師さんとやっとく」  絶対にやらないパターンだ。これ。  診察室を“しばらく使ってなかった”ということはこの病院には患者があまり来ていないのか。  確かに机や椅子もかなり埃がついている。  何週間、いや何ヶ月使われていなかったのだろうか。  僕は椅子についている埃を払って医院長の向かいに座った。 「じゃあ、今から問診を始めます   「なぜあなたは飛び降りようと思ったのですか?」    医院長はまず最初にその超どストレートな質問を僕にぶつけてきた。  野球で例えるのであればストレートというよりデッドボールに近い対応だ。  初手でデッドボールが飛んできたら普通は言葉のキャッチボールは成立しない。しかしなぜか医院長からはそれを強行させる不思議な圧力が出ていた。  威圧的に恐怖で無理矢理話させるような圧力ではなく、話す側の人間が無意識に話したくなってしまうような不思議な感覚だ。  それに耐えられなくなった僕は簡単に口を開いた。
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