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「おい、何逃げようとしてんだよ。」
逃げ出そうとした俺の肩がドサッと重くなり、体が前に倒れる。そして背中と肩の二点に重りがのし掛かった。重くて体が起き上がれず、顔を舐めるかのように死神は俺の顔の横につける。
「まさか俺が易々と餌を逃すと思ってんの?」
俺の頭をかなり大きい手のようなものでがしっと掴み、ジリジリと地面に強く顔を擦り付ける。しかし、その擦り付けから滲み出る痛みは異常に痛いはずだった。それが不思議と痛みが無い。
(あれ?なんか痛くないんだけど…、あとなんかうまく体が動かない。何これ?)
全く顔に痛みがないが、一切指ひとつ動かせない。そして、周りの雑音と共に死神の声がすぅと遠くなり、徐々に視界は薄暗くなってきた。
(あのバケモノの声も遠くなるし、視界もよく見えないなぁ。あぁこれが『死』ってやつなんだ~。)
視界が真っ暗に周りの雑音が静かになった時、その空間が静寂と呼ばれてもおかしくないくらいに静かな空間に仕上がる。その空間はただ暗闇で音もない空間なのに不思議と落ち着ける空間だった。その中で俺は今まで生きてきた人生を振り返り、大切に思った人たちに今更届けられないことを嘆いた。
(母さん今、元気にしているか?散々俺が問題起こして注意してくれたよな。ありがとう。でも、俺はもうダメみたいだ。父さん、俺が小さい頃誘拐されて自力で探しだし、誘拐犯の前にして刺されたよな。あの時は本当に俺のヒーローだったよ。でも、俺だけが助かったんだよな。でも今から行くよ父さん。)
俺の体にスポットライトが当てられたように上空から光が俺の体を照らし包む。
(あぁやっぱり天国にいくんだなぁ。)
その光に沿って、俺の体は少しずつ中に浮いた。体が全て完全に中に浮いた瞬間、色気ある低い声が耳に囁く。
「もう死んじゃうの?」
その声に反応し、体を大きく起こした。俺は愕然とする。辺りは真っ白で物が一切ない場所。物があることを1とすると、そこは全くない0の世界。 その世界に俺は居た。
「どこだ。ここは?」
「間だよ。」
俺は180°振り向くと、真っ黒い化け物が豪華な椅子に優雅に座り、俺を見ている。金色の飾りをつけたふかふかの椅子に、深々と足を組んで座って、俺を見ている。化け物は不気味な形の翼があり 、真っ黒い肌を持ち、爪や目は獣に近い。その化け物に対して命名するならまさしく『悪魔』。
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