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正面に回ることができれば、もしかしたら正解がわかるかもしれません。
でも混み合うバスの中です。座席移動することは叶いません。
ずっと見ている内に、だんだんその紐がタペストリーのように壁にお婆さんを吊るす為の物のように見えてきました。
それくらい絶妙なバランスで紐が耳の後ろから生えているように見えるのです。
私はその紐を引っ張りたくて仕方ありませんでした。
しかしそれがどこに繋がっているのかわかりませんし、引っ張って良い物なのかまったく確証は無いのです。
もしお婆さんの体内に繋がっていたら。たとえば脳と繋がっていたりなんかしたら。
好奇心を満たす為に私が紐を引っ張ったせいでお婆さんの脳が揺れるかもしれない。そんな恐ろしいことはできません。そんな妄想で頭がいっぱいになりました。
きっとすべて正面に回ることさえできれば解決するのに。
私は非常にモヤモヤしながら紐を睨んでいました。
そうして何駅も過ぎる内に、あることに気づきました。
このお婆さんはいつ降りるのだろう。
もし私の方が先に降りれば、振り返って正面を見ることができるのではないか、と。
しかしお婆さんは、しばらくするとそわそわと腰を座席から浮かせ、ひとつ手前のバス停で降りてしまいました。
さらにその後、そのまま背を向けて歩いて行ってしまうではありませんか。
バスが動き出して追い越せば見られるかと期待したのですが、真っ暗な夜の道ではそれも難しく、結局お婆さんの顔を正面から見ることができず終わってしまいました。
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