思い出の温度

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思い出の温度

師走。 我が家では一家総出の大掃除が行われていた。 庭の雑草を抜き、お風呂場の壁を洗い、窓を新聞で拭う。 今年で46になる私にはかなりの重労働であった。 「老けたなぁ」 冷たくなった手をカイロで温めながらぼやく。 いつからこんなに疲れるようになってしまったのだろうか。 「おっと。こんなこと思っていたら心まで寒くなっちゃう」 私は気合を入れなおそうとした時だった。 「おかーさん」 息子の裕樹がこちらを見上げている。 手には古びた本があった。 「これは?」 「押入れの中から出てきた。これってアルバムだよね?」 「アルバムなんて、うちにあったかしら?」 息子から本を受け取り、おもむろにページを開く。 「これは.....!」 私の子供の時の写真だった。 運動会でピースしているものから、布団で寝ているものまで。 「うわー、懐かしい。意外と覚えてるものね」 写真の隣には数年前に亡くなった母の筆跡でこう書かれていた。 「元気に育ってくれてありがとう!これからもたくさん思い出作ろうね!」 思い出は色あせることはあっても忘れ去られることはない。 母からのメッセージに思えた。 「ねぇ、裕樹」 「なに?お母さん」 「掃除は一旦やめて、ちょっと遊びに行こうか!」 「え!?じゃあ僕ゲームセンターに行きたい!」 この子と過ごせる時間、もっと大切にしよう。 私はそう考えながらバケツを持ち上げた。
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