本の部屋

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本の部屋

「ここにある本には全部、夢と希望と冒険が詰まってるの」その少女は言った。「貴女はどの本がお好き?この不思議な世界で旅をするお話かしら、それとも日常と非日常の狭間のお話かしら?」そう言って少女が指差す本は見たことのある装丁ばかり、読んだことのある本だっていっぱいある。それなのに、文字がなぜだか読めない。文字だとはわかる、私の知っている文字だと思うのに、思えるのに。私はこの状態を表現する言葉を持たない。 一つ一つ見ていく。やっぱりタイトルも読めない。表紙を見れば読んだことのあるはずのものはある。でも全く内容が思い出せない。私は読んだことのある本についての記憶は結構いい方だと思っている。それなのに、どうして思い出せないんだろう。 「とりあえず選んだ方がいいと思うわ」少女が言う。よくよく見ると、この少女のこともよくわからない。少女がいる、でも少女の顔、服、表情、何一つわからない。「選んだらこの部屋からは抜け出せるわ」少女は私のことを気にしていないように言う。「確かに時間はたっぷりあるけれど、私と違って貴女はもうこの部屋が嫌になってきているでしょう?」少女は私のようなものの対処に慣れているのかもしれない。少女の言う通りに選んでみようか、ここは一つ、なんだか一番懐かしいような表紙のこの本を。 「あら、それにするの?確かにそれを選ぶ人は多いわね。でも私はその本だけはもうそろそろ飽きてきたわ。でも、せっかく貴女が選んだ本だものね、いいと思うわ」そう言って少女がその本に触る。私の目の前はホワイトアウトしていく。
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