吐息

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吐息

あたたかいものが吐きだす息は、だいたい白い。 例えば、冬の吐息。 例えば、作りたてのコーンスープの吐息。 例えば、けたたましく笛を鳴らす薬缶の吐息。 そりゃ科学的に考えたら、当たり前のことかもしれない。でも、それに気付いた無邪気な子供に、当たり前だ、なんて言うだろうか? 身も心も冷え切った僕もまた、能天気な程に白い自分の吐息を眺めていた。 時計を睨む。僕の腕時計はとっくに2時を指しているのだが、未だに係員はこの人混みを前に進めようとしない。時計くらい合わせてくればよかった、と心の中で舌打ちした。 「神様、お願いします」「俺走るから、母さんは後から歩いてきて」 ノイズだらけの周囲とは対象的に、隣に立つ、中学生にしては大人びた顔つきの小塚は、この上なく無表情だ。しかし手で握っている紙切れが、ひらひらと震えているのは、隠しきれていなかった。 いつもなら話しかけているところだが、その姿勢には僕を黙らせる何かがあったから、僕は一人黙って、ただ本当の2時を待つしか無かった。 突然、周りの空気が変わる。それは、冬の夜の池のタイムラプスさながらに、ピシッと氷が張るような感覚だった。 「来た」     
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