吐息

2/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
誰が言ったのか知らないが、気づけば人混みの前の方は前に進み始めている。 2時だ。 うっかりしていたので、小塚が走り始めたことには気づけなかった。 僕は合格発表、という言葉がここ半年の間、ずっと嫌いだった。 そんな、受かったヤツだけのイベントみたいな言い方。前しか向けない、首が回らなくなったような、そんな言い方。 そんな感情で気づけば僕は今日を迎えていた。 だからこそ、手元の紙切れに刻まれた番号が、そのまま壁に立てかけられたボードに印刷されていたことには、自分の中でさえどう思ったらいいのか、ただ迷った。 その一つ上の番号が、2つ飛ばしになっているのも。 「おめでとう」 ごめん。と言いかけてしまった自分を呪った。 「すげえな!お前、この前の模試D判定だったのに」 しかし、言葉が出せない。 「うん、いや、お前は頑張ったよ。俺はちょっと、あれだな、多分。正月サボってたのがいけなかったのかな」 何か言わなきゃ…!とは思うほど、僕の舌は空虚だけを掴んでしまい、焦る。 腹に力を入れる。解けてしまいそうな何かを、必死に両手でつなぎとめるーーーー、 「ありがとな」 それが僕に言えた最善の言葉だった。最悪だ。 小塚はそれでも笑顔だった。     
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!