吐息

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僕の体をくるん、と後ろに回転させて、背中を押す。「ほーら、書類、もらってこい」 目の前には、合格を前にした笑顔の長蛇。そのしっぽは、かなり遠くだった。 「うん」 僕は前に進む。後ろは振り返らない、なんてのは強がりでも何でもなくて、ただただ余裕がなかっただけだ。 あの時、なんと声をかければ良かったのか。 その時、はもう過ぎてしまったから、もう取り返しがつかない。 つかない。 つかない、 つかない、、 本当にそうだろうかーーー、 「小塚」 振り返っても、目を凝らしても、彼の姿は無かった。 遠くの曲がり角に残る吐息の尾が、ゆらっ、と風に揺れて見えなくなった。
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