綿毛の飾り

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 ふわり。  それは午後三時、とある十一月のお散歩のことだった。今年の冬は到来が遅く、こんな時間でも暖かい。さすがに陽が落ちる午後四時頃からは、薄手だと厳しいところがある。  今は、愛犬のお散歩の時間である。コンクリートの上ではチャッチャッ、落ち葉の上ではカシカシと鳴る、四つ足の奏でる不思議な音が、愛おしいことこの上ない。  ハ、ハ、ハ、とあちこちの匂いを嗅いでいる。スンスンと黒の鼻先を動かして、忙しなく動く首。飼い主といえば、これからの寒暖差に備えてモコモコの装いであるが、犬なんてのは、何のその。リードを付けただけの、毛皮丸出しである。歩く度にふさふさ揺れるそれが、ユラユラ揺れる垂れた耳が、堪らない。  公園に着いた。遊具がほとんどなく、子供達もあまり近寄らない、ひっそりとした公園には、何と、季節外れのタンポポが咲いていた。  厳密に言うと、咲いていたタンポポが白の綿毛になって、あちこちに連なっていた。  愛犬はお構い無しに、まず敷地内へ入る。土と草を踏み、スンスンと首を動かして、小さなその肺にたっぷりと自然を煽る。そして、綿毛の群れへと寄って行く。耳に綿毛が入らないか心配だが、見ている限り大丈夫そうだ。  綿毛を、嗅ぐ。そっと、まるでそれが、ちょっとした刺激で飛んで行ってしまうことを知っているかのように、嗅ぐ。瞬間首を逸らし、ぶしっ、とくしゃみした。ああ、おバカである。垂れた耳が綿毛に突っ込んで。ああ、上手くいっていたのに。  駆け寄って、そっと払おうとする。毛が絡んで、取り切れない。頭や耳に、真っ白な綿毛がちょんちょん乗っている。  撫でられたと勘違いする愛犬は、ヘッヘと笑顔を浮かべてこちらを見る。わあ、なんだかお間抜けさん。愛らしいけど違うのだ。取らせなさい。  耳の中へは入らなかったが、なぜかご機嫌になった愛犬はそのまま歩き出し、綿毛を取り除くチャンスを奪う。そのまんま、満足げに公園を出る。  ルンルンと、コンクリートに爪を鳴らして、チャッチャと行く。その小さな足で、肉球で、地面を踏みながら、尻尾を大きく揺らしながら、頭と耳に、季節外れの白い綿毛を乗せた愛犬が、にこにこ笑う。  
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