Ano:ep1 母の形見が届くまで

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「あの子はまだ子供だ。癒えない傷を抱えたままこの組織にきてしまった子供なんです。その傷を癒してあげることは残念ながら私には出来ない。しかし傷口を開くことは出来てしまう。どうかお願いです。母親の拳銃だということは隠していただけませんか……?」  ジャックはこくんと軽く頷き「わかったよ」と、アリアンネの拳銃を受け取ったのだった。 「……恩に切ります」 「いいや、なんてことないさ」  ジャックは拳銃をまた元の場所にしまうと、「それから」と言葉を続けた。 「これ!お孫さんからっ!」  ちょこんと可愛くラッピングされた手作りクッキーを教官に手渡した。 「おじいちゃんによろしくって渡されたんだ」  キョトンと大きな一つ目をお月様のようにまん丸にする教官。思いがけないプレゼント口にくわえていた葉巻をポロリと落とす。誰だって突然の出来事には弱いもんなのさ。 「では、私からもよろしくお伝えください」  角張った重い口元が少し緩む。堅物で有名な教官が笑ったんだ。こりゃ相当嬉しかったんだね。 「あぁ、ちゃんと伝えとく。じゃあ僕はこれで。また何かあればまた頼むよ」  ジャックは「お邪魔したね」とだけ一言。この部屋を後にした。 (アリアンネ、赤ずきん……。良い教官を持ったね……)  静かにキィと古びた金具の音が聞こえるドア。人気の無い廊下で、ジャックはぽつり呟いたのさ。その顔はどこか嬉しそうだった。
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