21人が本棚に入れています
本棚に追加
物心つく頃にはACROPOLISの存在も家の在り方もすべてわかっていた。そして私は殺し屋の名家の三女として生まれた人間だということも。
由緒正しいお嬢様でも言うべきなのだろうか。当時の私はまだ五歳―――。明日、めでたいことに誕生日を迎える。母は私のためにバースデーケーキを作ってくれるという。ケーキは大好物だったが、何より母が私のために作ってくれることが嬉しかった。
そうそう、何故私が庭園にいるかと言うと。
庭園の一番奥にたたずむ小さな赤レンガの工房。そこが父の仕事場だった。
この頃の私は父に昼の弁当を届けるのが仕事だった。いや、日課と言った方が正しいのかもしれない。私はこの日課がひどく気に入っていた。優しい父はいつも私にガラスで出来た様々なものを作ってくれた。
白鳥の置物に、小さなティーカップ。小さなユリをあしらったコースターやティアラ―――。私はこっそりこれを庭園の隅に集め、コレクションしていたのだ。
今日はガラスで何を作ってくれるだろう―――。
そんなワクワクが日々私の体を動かしたのだ。陽気な夏の正午。爽やかなポピーの匂いと温かな日差しが私を眠りの世界へ誘った。
また吹くそよ風―――。うとうと首を揺らしている私に、母は何も言わず額にキスをし屋敷へと連れ帰っていったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!