【紙芝居語りより】 ACOROPOLISの人々

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   相手は初め当惑し、「わからない」と答えた。  するとそいつはまた同じ質問をするんだ。 相手がどちらかを答えるまで言い続けるんだな、これが。  言葉にならないむず痒い不快感がぞわっと襲うような……そんな不安を相手は感じた。  遂に相手は「自分は善人だ」と答えた。   「なぜ?」とそいつは言った。  少し目線をそらしつつ考えると、相手はこう説明した。 「今までの人生で一度も悪いことをしていないとは言えないが、かと言ってそこまで悪いことはしていない。だから私は善人なのだ」  自分で言っておきながら、まるで自身を肯定するかのような響きを感じつつも、相手は堂々たる態度を示す。  むしろ口に出して言ったことで、そう思い込ませようとしたのかもしれないね。  一瞬ピカッと空に雷光が走った時、そいつがにしりと笑っているのがわかった。 稲妻に照らされた不自然な程に白い歯が相手の心をざわりと逆なでする。  それはそれは気味が悪いもんでね。  まるで血の通っていない人形のようだったらしい。
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