21人が本棚に入れています
本棚に追加
「ならこうしよう。君をここで殺す。それだけだ」
クラレンスはこれまで感じたことのない畏怖を肌でしかりと感じた。異様に猫目がギラリと光り、小さな八重歯さえ恐ろしく思ったのだ。
このままでは殺される。
急に死への恐怖が大波のように押し寄せたのだ。手中にかいた汗が冷えていくような感覚。それはすぐに心を覆いつくしたのさ。必死な覚悟でクラレンスは、溶解炉に元々立てかけてあった護身用の散弾銃を邪悪な黒猫に向けた。
「いいねぇ。その顔」
黒猫はこの状況を楽しんでいるかのような余裕を見せる。三日月のような細い目が笑う様がクラレンスを離さない。まるで狙われるとでも言うように。まるで殺し屋がターゲットを逃すまいとしているように。
「でも、残念だよ」
この瞬間、早業というのに相応しい出来事が起こった。黒猫の尻尾が二つに分かれ、瞬時に彼の散弾銃をバラバラにしたんだ。そして一尾は父の首を絞め、足が地面につくギリギリのところまで持ち上げた。
「ぐッ……!!」
尻尾が首を絞める強さは段々と増していく。もう一方は何やら先端がぷっくりと膨れ上がっていくのがクラレンスの目から確認できた。
「今君を殺すことは至極容易いことだ。でもそれじゃあつまらないよね?」
黒猫は膨れ上がった尾を彼の口元まで持って行く。
「毒殺……なんてどうかな?」
ギラリと気味悪い牙を見せつけるかのように満面の笑み。それはそれは悪魔に相応しい顔だったのさ。苦痛にもだえる人間の姿に愉悦の色を目に浮かべる悪魔が脳裏によぎる。クラレンスはこのまま何もせず死ぬなんて真っ平だった。
最初のコメントを投稿しよう!