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相手はこの不自然さに恐れおののき、この場から立ち去ろうとした。
せき止めていた不審感が一気にドバっと心を支配したのさ。
雨で濡れた地面に足を引く音が混じる。
足を一歩後ろに下げるたび、重い鉛のような空気が纏わりつく。
じめっとした胸騒ぎも一緒にね。
気付いた時には、もう遅かったのさ。
首から流れる真っ赤な血。
ドクドク脈打つ音が鼓膜から離れない。
バタリと倒れた男はそのまま静かに瞼を閉じた。
最後に映った景色はどんなもんだったんだろうねぇ。
翌日、黒い布切れと真っ赤に染まった路地裏が見つかった。それと遺体も。
第一発見者は朝刊の新聞配りらしい。
とっさに彼は近くの交番に駆け込み、現場に警察官を連れてきた。
しかしそこにあの生々しい遺体は魔法のようにパッと消えていたんだ。
跡形もなく……さ。
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