1/3
前へ
/17ページ
次へ

 伊勢はやはり時平と結ばれた。  当初こそ伊勢に未練がましい和歌も贈った。  近院での生活に慣れるに従い、これで良かったと仲平は思った。  姫の体はしだいにふっくらとしてきて、月のものも始まった。  元の美貌が戻っていないのが残念だと、気の利かない女房が言っても、仲平にとっては姫は誰よりも愛おしい。今でも仲平の手から食べたいと甘える。  姫はよく笑い、たどたどしく琴を弾いた。  仲平は横笛、姫は琴で合奏したが、間違えては二人で笑い転げた。  そんな凡庸で穏やかな日常に仲平は満足していた。  ある日、姫は意地悪な人に仲平には伊勢という人がいたと聞かされて驚き、震える声で伊勢とはどんな人かと尋ねた。  仲平は答えた。 「花よりも美しく、舞えば蝶。楽器を弾けば鳥が寄る。和歌を詠めば額田王の再来」  姫はワッと泣いた。仲平は姫の髪の毛を撫でて言った。 「しかし、姫ほど私を思ってくれる人ではない。気になさるな」  二年もして、姫は懐妊した。  仲平は赤子の首が座ったら、枇杷殿に姫と赤子を引き取ろうと言った。 「幸い私は岳父様の世話なしでやっていけそうだからね。あなたを枇杷殿で自分でお世話をしたい」     
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加