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姫はたいそう喜んだ。
梅雨が明けて、水無月も末になった。
姫の出産のための陰陽師の祈祷が響く中、北の御方は今度も落ち着きなく部屋の中を歩き回った。
時間がかかりすぎてはいまいか。
仲平も大納言と共に一身に祈祷した。
姫の出産は夜から始まりとうとう朝が来た。
遠慮のない足音がして、姫づきの女房が駆け込んだ。
「産まれたか!?」
大納言の問いに、女房は声を振り絞った。
「お亡くなりになりました」
誰が?誰が死んだと言うのだ。
「死産か」
「はい。姫さまも、力尽きてしまわれました」
近院には産声の代わりに、仲平の慟哭が響いた。
伊勢は時平から、例の大納言家の姫君が産褥で亡くなったことを聞かされた。
一度は恨んだ人である。
自分が仲平の真心を時平の形代にしていたこと。そして仲平がそれを知っていたことを伊勢に突きつけた事件だった。
仲平への申し訳なさで心が苦しくなり、伊勢は姫を深く逆恨みにした。
しかし、あの姫が仲平を婿とってくれて仲平を解放したのだ。あの姫あって自分はこの殿と結ばれたと思い直し、恨みは溶けて感謝がある。
日が落ちて、少し気温が下がった。
「出てきてごらん。今夜は妙なほど蛍が多い」
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