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 夫妻の大姫はまだ幼いと言って良かった頃、当時の弘徽殿の女御(藤原高子)に請われて水尾の帝(清和天皇)の女御にした。すぐに帝が譲位され、大姫が突然亡くなって数年になる。年頃になれば二の姫には大姫の分も幸せをつかませようとしていたのに、裳着の直後に物を食べるのをやめてしまった。  西の対から父に似てむっちりとした、まだ幼い姫が歩いてきた。 「父上さま、母上さま」  三の姫である。 「どうした」 「姉さまがまた、お会いしたいと繰り返されます」 「ですから、母は喪中ですからと」北の御方は三の姫に言った。  しばらく前から二の姫は、発作のように「お会いしたい」と呟く。  三の姫の乳母が「恐れながら」と言った。 「二の姫さまは恋わずらいではございますまいか」  ふうっと大納言はため息をついた。 「まろはこれから出仕じゃ。その後に方違えである。任せるぞ。恋わずらいならば、会って密かに話を聞くが良い。相手がわかれば婿に取る手配をせよ」 「しかし、入内は」 「姫が大姫のように亡くなるよりは良いではないか。ただし、相手は公達の息子に限定するぞ」  姫に会えば喪のけがれが娘の病を悪化させやしまいか、という北の御方の抗議を大納言は「喪のけがれも何も、姫はどのみち床についているではないか」と無視して、「任せるぞ。大納言家からの縁談を断る阿呆はいまい」と足音を立てて去っていった。  その夜、北の御方は西の対の姫のところに行った。  ぼんやりと姫は目を開けた。その目に力はない。     
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