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仲平はまた上澄みをすくって口に入れてやった。
姫が笑ったような気がする。
「私を思って絶食してはいけませんよ」
また姫が笑ったような気がする。朗らかな姫だったのだろう。
「思いを伝える方法がなくてこんなことをしたのですか」
姫が頷いたような気がした。
「今度は少し、粥のね、米の実の方も口に入れてみませんか」
姫は首を横に振らない。
「あーん」
一晩かけて、ゆっくりと姫は粥を食べた。
気がつけば夜も更け、周囲に人はいなかった。
「そろそろお暇にしよう」
そう言うと、姫が袖を引っ張った。力がなく、するりと姫の手から袖が抜けたが、仲平は袖の抵抗をはっきりと感じた。
「嫌なの」
姫が頷いた。
「添い寝をしてください」と姫が言ったような気がした。
「私にここで共寝をせよと?」
これは婿取られるということだ。
仲平には将来を誓った相手がいた。
異母姉の弘徽殿の女御・温子に女房として仕える、伊勢という若い女房である。
仲平は伊勢の気持ちが、自分を向いていないのではないかと恐れていた。
伊勢の相手は、兄・時平。
時平も時平で美しい伊勢を気に入り、弘徽殿にいけば取り次ぎは伊勢に頼む。
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