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 近院の使者が、役目を果たしたのはすでに夕刻になろうとする頃である。  九条では枇杷殿と言われ、枇杷殿では右衛門府と言われて、ようやく仲平を探し出した。  急ぎ来るように、と顔すら覚えない異母姉の滋子に言われても、仲平に心当たりはない。「右衛門の督ではないか」と問えば、使者は「確かに、枇杷殿の佐さま、と言われました」と返答した。  遺産か。  確か近院は父が用意した邸である。もっと欲しいなら嫡男に言えよと思うが、兄の右衛門の督としての多忙を極める様子は側で見ている。近院の大納言は左衛門の督を勤めたこともあったな、と思い出せば、時平の忙しさを推測して自分を呼んだかと、兄には「近院の姉上に呼ばれました」と伝言を残して馬に乗った。  近院に入った頃には日が落ちていた。  こちらですと案内されたのは、北の対ではなく西の対である。方違えかと特に不審に思わず、部屋に通された。  御簾の向こうには横たわった人とその横に座っている人がいた。 「近く寄られよ」と北の御方は言った。  相手は喪中である。  仲平が躊躇していると、姉という人は「私はあなたの父上の喪に服しているのです」と半ば強引に御簾の近くに来させた。     
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