第1章 読女してます

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第1章 読女してます

雪が降る12月21日金曜の午後。やる気のない仕事のやる気が出てくる。あと、5時間。カタカタとキーボードを叩きながらも、パソコンの右下のデジタル時計が気になる。 「鈴木さん、この資料の値、間違えてない?間違えてるよね、今日も」私の仕事が出来ないのが原因なので責めきれないが、課長はいつも余計に多い。やる気をいとも簡単に削いでくれる。営業3年目のしおりは、繰返す毎日と寒さに嫌気がさしていた。 そんなしおりのリフレッシュは本を読むこと。特に才女という訳でもないが、昔からの読女である。土曜日なんかは1日中、本屋さんにいることも多い。時刻は17時59分。シャットダウンのボタンにカーソルを合わせた。18時の帰宅のチャイムに合わせて、クリックした。続々と片付けの音がする。毎週金曜日は強制的に定時で帰らされる決まりになっている。こんな嬉しいことは無い。会社の売上が厳しいために、先月から施行されたルールになっている。残業代を出したくないのだろう。チラホラと周りに挨拶をし、会社を出た。仕事終わりに彼氏とデートなんて事は夢のまた夢。1人暮らしの寒く寂しいアパートに帰った。 簡単に夕食を済ませ、お風呂に浸かった。この時間もしおりにとっては至福のひとときである。鼻歌を歌いながら、髪を洗ってお風呂を出た。ドライヤーを当てた後は、小顔の体操を始める。私の顔が大きくても小さくても皆はどっちでもいいだろうけど、女を捨てた訳じゃない。もう何年もしおり、なんて呼ばれてないけど、女を捨てた訳じゃない。 明日だって本屋さんだけど、私なりにお洒落をして行くつもりだ。明日に備えて、今日は早く眠りに就いた。 22日土曜日。朝ごはんを食べて、軽く掃除をしてから部屋を出た。いつもの本屋さんの開店時刻丁度くらいに着いた。先週の土曜日と全く同じ行動だ。そういえば、お洒落だと思っているこの服も先週と同じだ。違うのは寒さだけで、より寒くなった。自動ドアを抜けると暖かな空間が待っている。吐息が見えなくなるまでは、本に触ることなく、ただ背表紙ばかりを眺めていた。 移り変わりが早いもので、先週並んでた本が変わっている棚もあった。お勉強の本のところはあまり変わらない。英語は動詞だ!英語は名詞だ!英語は形容詞だ!と各々の本が背表紙で訴えてくる。結局、英語とはなんなのだろうか。
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