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虚勢と
翌々日、カラカラの晴天。一架はいつも通りを装って登校した。
「おはよ、一架!」
「柊……おはよう」
電車に一本乗り遅れた為少し遅い時間だったが、校門前で柊と会った。彼はこちらを見ると眉根を寄せ、かなり近くに顔を持ってきた。
「お前、何か前よりやつれてるぞ。どうした?」
「いや、ちょっと寝不足が続いてるだけ。大したことないよ」
余計な心配をかけないよう笑って返す。それでも柊はさっきより険しい顔で腕を組んだ。
「……寝不足って、勉強とかじゃないだろ。何か悩んでんなら言えよ」
「あ……ありがと。でも、今はマジで大丈夫」
彼の気持ちが素直に嬉しい。その反面、申し訳ない気持ちになる。
自分は親友にも言えないような秘密を隠し持っている。相談しようにもできないことが恥ずかしい。
彼には迷惑をかけたくない。距離感も程々を保たないとな。
「一架先輩、おはようございます!」
「うっわ! 柚!」
心臓が止まりそうになった。突然目の前に現れたのは、ホテル以来の柚だ。
顔を合わせたくなかったのに、タイミングが悪過ぎる。また嫌なことを思い出して腹が痛くなってきた。
上手くこの場からエスケープする方法を考えていると、隣の柊が目を輝かせてることに気付いた。何か嫌な予感がする。
「一架、その子誰?」
「あ、初めまして。高城柚っていいます。一架先輩には色々お世話になってて、尊敬してるんです」
「へぇー、そうなんだ! 俺は津久見柊。よろしく」
柚の白々しさがすごい。また一人称が僕に戻ってるし。
「一年生かぁ。何繋がり? 生徒会とか?」
「いや、そういうんじゃないよ。ただの知っ、知り合いで……っ」
適当に誤魔化し、再び歩き出す。よくよく考えたら、柊と柚は俺の偏った性格を知っている。
だから変に取り繕う必要はないんだけど……二人が初対面だから、そこは触れないでおこう。できるだけ普通に、大人しくしとくか。
「へえ、柊先輩は一架先輩の幼なじみなんですか。じゃあ先輩のこと何でも知ってそうですね」
「いや~? 一架は隠し事が多いからな、俺も知らない事いっぱいあるよ」
「あぁ、それちょっと分かります」
さらに二人が盛り上がるから、彼らを残して先に歩いた。
落ち着かない。すごくハラハラする。
これを何とかできるのは、多分“彼”しかいない。
「俺、ちょっと用思い出したから。先に教室に行ってて」
無理やり二人と別れ、一架は図書室に向かった。
鍵は掛かってなくて、扉は簡単に開いた。
その奥、窓際で書類整理をしている。
────やっぱり、彼はそこに居た。
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