【2】発見

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 私の「名付け」が明日行われる。母さんの口からそれを聞いたとき、私は不思議な感覚を覚えた。  今まで私は「私」だったのに、明日には「私」ではない別の何かになっている。喜びや興味よりも、なんだか怖かった。  私の不安は母さんにも伝わったのだろう。心配しなくても大丈夫と言ってくれた。 「名前」とは一体、どんな物なのだろう?私は明日から「名前」になるのだろうか? ごちゃごちゃな悩みを抱えながらも、母さんには「わかった」と言った。本当は何もわかっていないのに。私は母さんに嘘をついた。私以外、誰も困らない嘘だった。    朝食の後、リラに「名付け」のことを伝えにいった。今は誰でもいいから、この不安を伝えたかった。  リラはネイとサバを追いかけていた。ネイはリラと同じ時期に生まれたオスで、体の色が黒っぽい。ジャンプの高さはそこそこだが、とにかく喋るのが好きな奴だ。   「そんな風には考えなかったな」私の話を聞くと、真っ先にネイが答えた。 「名前がつくだけだろ。そこまで悩むか? 」 「わかってないなあ」とリラ。 「まあ、私も考えたことないけど。むしろ嬉しかったな」  やはり、か。それもそうだ。「名付け」は本来、無事に3歳まで生きられたことを祝うものなのだから。 「それに、名前が無いと不便だと思うぞ。いつまでも『お前』って呼ばれるの、嫌だろ? 」 「うん…まあ……」  ネイの言うことはわかる。しかし、それが今までの私だった。それが変わるのが、なんだか怖いのだ。  話せば話すほどわからなくなってきた。そんな私を見てか、リラがぽつりと言った。 「そんなに気になるならさ、行かなくてもいいんじゃない? 」
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