【3】秘密

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 それは今まで見たことのない、不思議なものだった。  見た目は透明で、クラゲのようだ。しかしつついてみると、硬い。  硬いと言うことは、貝だろうか? だが、海面を漂う貝など聞いたことがない。  恐る恐る咥えてみると、とても噛み砕けそうにない。それに、味もない。  咥えたまま振ってみると、微かに中から音がする。何かが入っているようだ。  一体これはなんだろう?  持ち帰って、ナモさんや母さんに聞いてみようか。しかしそれはすぐにやめた。もしかしたら、これは私が世界で初めて見つけたものかもしれない。それなら私だけの秘密にしておきたい。何かがわかったら、みんなに見せて驚かせてやろう。  辺りはすっかり暗くなっている。今日はもう遅い。また明日、明るくなったら見に来よう。  私は「それ」をしっかり咥えると、深く潜った。流されないように、そして誰にも見つからないように、隠しておかなくては。  どこかに手頃な岩穴がないだろうか。あたりを見渡すが、近くにはなさそうだ。それなら「音」を使おう。  私たちは目があまり良くないので、周囲を確認したり、食べ物を探すときは頭から「音」を出す。跳ね返ってきた「音」を受け取ることで、物の位置を知るのだ。  あちこちに「音」を出して探していたが、なかなか見つからない。急がないと。  ずっと潜っていたので、息が苦しくなってきた。そろそろ潮時だ。もう一度息継ぎをして、探しても見つからなかったら諦めるしかない。 「それ」を落とさないように気をつけながら、息を吸う。今度は慎重に、返ってきた「音」を一つ一つ確かめる。  最後の光が消えたその時、ついに見つけた。  岩と岩の間の、小さな隙間だった。ここならきっと大丈夫だ。私はその隙間に、ゆっくりと「それ」を入れた。
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