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「名付け」小さい頃から度々聞いた言葉だ。
私たちは三歳まで名前をもたない。名前があるのは、三歳まで無事に生きることができたものだけ。
そして「名前」を「ヌシサマ」から頂くのが「名付け」。そう教わった。
「ええ」母さんが返す。なんだか言葉に力が入っていない。私のことが心配なのだろうか。
その疑問を解決する前に、ナモさんが喋り出す。天気のこと、イワシの群れのこと、カモメ達の冗談のこと。言葉の波を浴びているうちに、母さんに抱いた小さな疑問は頭から流れ去っていた。
ナモさんと別れた後、私はリラに会いに行った。彼女は私よりひと月早く生まれたが、体の大きさはほとんど同じだった。
私は彼女に、名付けについて聞いてみた。
「特別なことをするわけじゃないの」リラの声は透き通っている。
「待っているだけだった。他には何も」
リラは多くを語らない。私から話しかけないと、すぐに終わってしまう。
「ヌシサマって、どんな方? 」
「白くて、大きかった」リラはぽつりと言った。
「言葉で言うのは、難しい。でも、すごく大きい」
「どのくらい? 」
「会えばわかる」それでは会話にならない。
「楽しみは、取っておくものだよ」リラの口にいたずらな笑みが浮かんだ。
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