【1】私

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「名付け」小さい頃から度々聞いた言葉だ。  私たちは三歳まで名前をもたない。名前があるのは、三歳まで無事に生きることができたものだけ。  そして「名前」を「ヌシサマ」から頂くのが「名付け」。そう教わった。 「ええ」母さんが返す。なんだか言葉に力が入っていない。私のことが心配なのだろうか。  その疑問を解決する前に、ナモさんが喋り出す。天気のこと、イワシの群れのこと、カモメ達の冗談のこと。言葉の波を浴びているうちに、母さんに抱いた小さな疑問は頭から流れ去っていた。  ナモさんと別れた後、私はリラに会いに行った。彼女は私よりひと月早く生まれたが、体の大きさはほとんど同じだった。  私は彼女に、名付けについて聞いてみた。 「特別なことをするわけじゃないの」リラの声は透き通っている。 「待っているだけだった。他には何も」  リラは多くを語らない。私から話しかけないと、すぐに終わってしまう。 「ヌシサマって、どんな方? 」 「白くて、大きかった」リラはぽつりと言った。 「言葉で言うのは、難しい。でも、すごく大きい」 「どのくらい? 」 「会えばわかる」それでは会話にならない。 「楽しみは、取っておくものだよ」リラの口にいたずらな笑みが浮かんだ。  
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