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私は水面に向かい、深く息を吸った。全身に空気が染み渡り、疲れが和らいでいく。
結局実力行使しても、「名付け」の情報を得ることはできなかった。しかしあれほど聞いて何も答えないとは不思議だ。リラは確かに口数は少ないが、質問には大抵答えてくれる。断片的な情報しか言わないとは、何か事情があるのだろうか。
浮かびながらしばらく考えていたが、結局何もわからなかった。まあ何にせよ、「名付け」が来ればわかるだろう。悩むのはやめだ。
水面から顔を出し、もう一度深呼吸する。光が目に刺さって痛い。それが少しずつ引いてくると、遠くに陸が見えてきた。
前に一度、陸のそばを泳いだことがある。そこは水の中には無い、不思議な匂いで溢れていた。
その匂いは花というものだと、母さんから聞いた。どうすれば陸に行けるの、と私が聞くと、母さんは小さく笑うだけだった。
目を輝かせた自分の子に、現実を教えるのは忍びなかったのだろう。次の日、ナモさんに尋ねて知った。
私たちは陸に行くことはできないと。
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