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壁の絵
悪を誘うピエロのような化粧の顔が、白い壁から不敵な笑みを投げかけていた。
おんなとも男ともわからないその人物は、髪を後ろに撫でつけ、得意げにムチを持ち、下半身だけが解放された黒ずくめのボンテージ姿だった。局部は真っ赤な一輪のバラで覆われている。
悪趣味だと思ったが、妙な迫力のあるこの壁絵に数秒、そして、水銀を部屋の隅々に撒き散らしたようなリビングの匂いに数秒気をとられつつ、ぼくはソファーに腰を沈めて戸惑っていた。
「えつこさん、運んでくださるかしら」
ゴシック調の黒づくめの貴婦人……本当に貴婦人なのかはわからない……が、キッチンらしき部屋から、ぼくのななめ前に突っ立っていたえつこに声をかけた。
えつこは汚い猫のぬいぐるみを持ったまま、
「へ? なにを」
と締まりのない声でいった。
えつこは、モード・ファッションというのだろうか、後ろを刈り上げ、黒々とした髪を頬のあたりに尖らせ、ノリのようなもので貼り付けた奇妙な髪型をしている。
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