白い森

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「お母さん。何だか急に林檎が食べたくなったわ。真っ赤で大きい甘い林檎が食べたいわ。」 「ああ。リズ!わたしの可愛い娘。いいわよ。あなたのお願いなら何でも叶えてあげる。」 娘の我儘に継母は猫なで声でそう返した。次いで、いつものように暖炉の掃除をしているリディアにきつい言葉を投げかけた。 「リディア!聞こえたでしょう?さっさと林檎を手に入れてきなさい!」 リディアは継母に籠と薄くすり切れた灰色のショールを投げつけられ、家の外に追い出された。リディアの懇願も空しく、無情にも鍵をかけられてしまう。仕方なく、リディアは雪が降るいつもる中、外を彷徨い歩くしかなかった。当然だが、どこにも林檎なんて売っていないし、実っていない。疲労を覚えたリディアだったがやがて、リディアの目に白い森が目に映った。 ー白い森に入ってはいけない。入ったら、最後。魔女の怒りに触れ、呪われてしまう。 リディアは唾を飲み込んだ。リディアにはもう選択の余地がなかった。やがて、娘は森に足を踏み入れた。亡くなった母親の形見である十字架のペンダントを握り、二度と村には帰れないかもしれないと覚悟しながら。 白い森はどこまでも白い世界に包まれていた。木や葉っぱの色、枝、地面の色までも真っ白だった。ここまで白に染まっているのは珍しい。まるで、世界には白い色しかないのだろうかと錯覚してしまう程だ。 娘は暫く森を歩き続ける。魔女らしき存在も呪いとやらも何も感じない。が、森は不気味な程、静まり返っている。娘はとにかく早く森を出ようと目的の物を探し始めた。やがて、娘はどこからか話し声が聞こえた。人の気配に安心し、娘はそちらに向かった。声を掛けるより前に娘は様子を窺おうと木と木の間からそっと覗き込んだ。すると、そこには老婆がいた。髪も肌も白く、服装も白いローブで包まれている。が、様子がおかしい。老婆の前には多数の男達がいた。囲まれているというよりも男達は老婆に傅いているように見える。話し声の内容までは聞き取れない。すると、数人の男が老婆の前に何かを持ってきた。差し出したのは大きな麻袋だった。中から、取り出されたのは、臓器だった。思わずリディアは口を覆った。すると、老婆は口をガバリ、と異様なほどに大きく開けるとそれを呑み込んだ。やがて、老婆の顔は徐々に若さを取り戻していく。その顔は妙齢の女性のものに変わっていった。
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