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「おい。大丈夫か?…悪かったな。あいつらに見つからないようにするにはああするしかなかったんだ。」
「あ、いいえ!助けて下さり、ありがとうございます!」
リディアは頭を下げてお礼を言った。
「何故、こんな所にお前のような若い女がいる?白い森の噂は知っているだろう。ここは俺達の一族以外の人間は立ち入りを禁じている。見つかったら、最後、二度と生きては帰れない。」
「ご、ごめんなさい!実は…、」
リディアは事情を説明した。すると、青年は
「成程。事情は分かった。しかし、こんな冬の時期に林檎が育つわけがないだろう。その妹とやらは頭がおかしいのではないか?」
「あ、あの…、それは…、」
黙り込んだリディアに青年は溜息を吐いた。
「まあ、いい。…現実的には無理だが全く心当たりがないわけではない。]
「えっ?本当ですか?」
「林檎が欲しいと言ったな?なら、目を瞑れ。」
「え?」
「数秒だけでいい。目を閉じるんだ。」
リディアはそっと目を瞑った。青年が近づく気配がする。次の瞬間、強い風が吹いた。
「開けてもいいぞ。」
そっと目を開くと、目の前には若々した緑色の草原が広がっていた。そして、その中央の大きな木には豊かに育った赤い林檎が実っていた。
「わあ…!林檎が…、そんな、どうして…?それに、ここは…?」
「悪いが時間がない。ここの空間を保っていられるのも数分が限界だ。早く林檎を摘み取れ。」
青年に言われ、リディアは林檎に手を伸ばした。が、背が届かない。すると、青年は近づき、持っていた杖のようなもので木を叩くと林檎がボトボトと地面に落ちた。リディアはそれを拾った。青年も数個拾い、リディアに差し出した。
「それだけでいいのか?」
「はい!十分です。ありがとうございます!」
リディアは林檎を受け取り、笑顔で礼を言った。
「そろそろ戻らなければ。俺に掴まっていろ。」
青年に身体を引き寄せられ、リディアは先程と同じように目を瞑った。そして、また目を開けた時には元いた場所に戻っていた。
「さあ、早く家に帰れ。奴らに気づかれれば危険だ。」
「あ、お待ちください!お名前を…、お名前を教えてくださいませんか?私は、リディアと言います。」
「俺の名は…、ディランだ。」
「ディラン…。あの、本当にありがとうございます。何とお礼を言ったらよいか…、」
「礼など不要だ。」
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