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獣族の男は、番いと認めた相手を生涯かけて愛し通す。その愛情は底無しに深く絶対であり、それは時に固執していて獣じみてさえいた。
死別は誰もが通る道であるが、人の姿をした獣にとって、番との別れは心の崩壊をも意味する。
「呪われし種族の僕たちは、どう足掻いても滅びの道を免れない運命なのかもしれない 」
「兄さま、僕たちは呪われているの?」
ハクヤが見上げると、兄のエリアスと目が合った。その瞳には、悲しみの色が浮かんでいる。
「……そうだよ、ハクヤ 」
いつの頃からか、獣族は人と番わなければ子を成せなくなっていた。何故なら生まれてくる子供は、男児ばかりだったのである。そのため、時折り人里におりては、人間の若い娘を娶らねばならなかった。
「……昔あるところに、一匹の狼がいました。その狼は満煌石を使って遠い氷国から島国へとたどり着き、そこで美しい番を得た……そして二人の間には、玉のような女の子が生まれました 」
幼いハクヤが、目をキラキラと輝かせてエリアスの話に聞き入っている。
「うわぁー! 兄さま、早く続きを聞かせてよ 」
「この話の続きなら、お前も知っているだろう? 三百年ほど前、実際にこの地で起きたのだから 」
ハクヤは以前、父から聞かされた話を思い出す。
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