依頼

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 香代子が添付してきた写真は二枚あった。いずれも水槽とその中にいるグレーの物体だ。ブレてはいるが、流線形のフォームや尖った背ビレを見るに、サメかイルカか、そういう生き物であることは間違いなさそうだった。  俺はPCを前に考え込んだ。  2mのサメを個人宅で飼っているなんて、常軌を逸している。ペットとして飼っていた危険動物が成長しすぎて持て余してしまった、というよくある事例の一つだろうか。手の込んだいたずらか。それとも新手の詐欺か。 (話だけでも、聞いてみるか……)  俺が香代子に電話した理由は二つある。  一つは好奇心だった。  巨大な水槽を家の中に置いてまで、2mのサメを飼うことになった経緯に興味があった。  二つ目は、謝礼という言葉に惹かれた。  メールに書かれた香代子の住所は、東京の有名な高級住宅地のものだ。写真に写っている水槽のある部屋も、一般の住宅の広さではない。桂木家は相当な資産家に違いない。心ばかりの、と言いながら、謝礼の額はかなり期待できるのではないだろうか。  俺はサメ皮を扱うと言っても業者から皮を仕入れて加工しているだけだから、サメの解体に関わったことなどない。  それでもサメ業者にツテはあるし、俺が仲介して業者を呼べば、そいつの日当と交通費を除いて謝礼を丸取り、しかも鮮度の良い皮もタダで手に入るのではないか。  そんな期待から、俺はメールに記された桂木香代子の番号に電話をかけたのだった。
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