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水槽
その水槽は、リビングルームの殆どの面積を占めていた。
楕円形の水槽だ。幅10m、奥行きは3mほどもあるだろうか。熱帯魚観賞用の透明な水槽とは違い、白と水色のプラスチックのような素材でできており、蓋がない。直に床に置かれているせいか、水槽というより、養殖業者のいけすのような印象だ。
へりは俺の胸の高さまであり、なみなみと水が入っていた。
その巨大な水槽の中に、一匹のサメがいる。体長2mほどのサメは、楕円形の水槽を忙しなく回遊していた。回し車の中で走るネズミのようだ。
俺は暫く、部屋の入り口に突っ立って巨大水槽とサメを凝視した。
「こちらへどうぞ」
そう言われて、ハッと我にかえる。
女性が、部屋の隅で俺を待っていた。
水槽に占拠された広いリビングの隅に、小さなテーブルと椅子が2脚置かれている。テーブルの上には、冷茶が用意してあった。
女性は口元に笑みを浮かべて、奥の椅子を俺に勧めた。
彼女は桂木香代子、この家の女主人だ。
そして自称、このサメの母親……らしい。
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