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一瞬、古里の姿が脳裏に浮かんだ。だが、あれは口説くのではなく、『襲う』だ。該当はしないだろう。それに、仮に誰かから口説かれても、わざわざここで伝えるつもりはなかった。意味がないからだ。そもそも、口説かれていると言うなら、毎日リコからそれを受けている。うんざりするほどに。
祐真は首を振った。
「そんなこと一度もないよ」
祐真の返答を聞き、彩香は口を尖らせた。どこか不満そうだ。
「そうかー。残念」
「なんでだよ」
「祐真君が彼氏を見つけたら、この教室、コンプリートだからね」
「コンプリート?」
彩香は、嬉しそうに首肯し、両手を広げた。
他の女子二人も、微笑んでいる。
「うん。皆彼氏持ちになったってこと。つまり、クラスの男子全員、ゲイになった証拠だよ」
実に明るく彩香は言う。まるでクラスで協力し、何かの賞でもとったかのような風情だ。祐真はそのような彩香の言動に、少し引いてしまう。
この学校の状況も異様だが、それを快く受け入れる人間も同様な気がした。しかも、彩香のみならず、篠原を含むこの二人の女子も、同じくそれを喜んでいるのだ。……揃ってBL好きなのだろうか。
押し黙った祐真に、彩香は再度質問をする。
「本当に誰からも口説かれていないの? 押し倒されそうになったり、強引にキスされそうになったりしていない?」
祐真は小さく頷く。何なんだろう。この違和感は。
「そうなんだね。まあでも祐真君は可愛いから、いずれ必ずアプローチされるよ。楽しみにしてて」
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