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透き通ったクリスタルボイスが、祐真の耳へと届く。『彼』は、手にお玉を持っていた。まるで、嫁のような風情だ。
「……ああ、おはよう」
祐真はそっけなく返事を返す。無視をしたらしたで、またしつこく絡んでくるに違いない。嫌でもここは、返事をしておくのが得策だ。
「寝起きの祐真の顔も素敵だよ」
『彼』は、整った顔をキラキラと輝かせ、そう言った。祐真はげんなりする。
何も答えず、祐真は『彼』の脇を通り、トイレに向かう。その際、『彼』がこちらを見つめていることに気が付いた。
「覗くなよ!」
そう『彼』に釘を刺す。『彼』がここに住むようになってから、幾度となく覗かれそうになった。トイレのみならず、風呂もだ。
「わかってるよー。朝ごはん、もう出来たから」
『彼』は、にこやかに笑って答えた。
トイレを済ませ、部屋に戻ると丸テーブルの上に、朝食が用意されていた。ベーコンエッグに、銀鮭。そして味噌汁と白飯。不本意な同居生活だが、こいつは料理が上手い。重宝できる特徴だと思う。こいつは人間の世界の料理を短期間でマスターしたのだ。
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