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まるで恋人かのような行動に、祐真は心底嫌そうに首を振った。
「やめろよ。気持ち悪い」
「だって、僕の手で食べさせたいんだよ。祐真の食べる仕草も可愛いし。なんなら口移しで食べさせようか?」
「却下」
祐真はピシャリと言い放つと、食事に戻る。毎度の如く行われるリコのアプローチに対するあしらい方も、随分と手馴れてしまった。それが、喜んで良いことなのか悪いことなのかはわからないが。
朝食を済ませ、祐真は登校の準備を行う。リコはまるで侍女であるかのように、手伝ってくる。これは助かるので、好きにさせるが、着替えだけは手伝わせなかった。
高校のブレザーに着替え、リコから弁当箱を受け取る。リコが作るようになってからは弁当持参だ。それまでは、購買のパンで済ませいていた。
祐真は玄関で靴を履き、扉を開ける。
「行ってくる」
それだけリコに言い、部屋を出た。リコは玄関口に立ったまま、光のような笑顔で手を振って見送っていた。まるで新婚夫婦だ。
溜息を一つつき、アパートの階段を下りる。通学路に入り、祐真は高校を目指して歩き始めた。
リコと出会ったのは、ちょうど一ヶ月ほど前の時だ。夏休みが終わり、暑さが少しずつ和らいできた頃だった。
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