召喚

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召喚

 朝食の香ばし匂いが鼻をつく。  羽月祐真は、毛布の中に潜ったまま、まだ覚醒しきらない頭で、ぼんやりと疑問に思う。  なぜ、朝食の匂いがするのだろう。  確か自分は高校生になって、アパートで一人暮らしをしていたはず。実家ではないのだから、自分が作らない限り、こうして朝食の匂いが漂ってくることはありえないのだ。あれ? それとも実家に帰ってたっけ?  蜃気楼のように生まれ出た靄が、頭の中を占領していた。思考がはっきりとせず、前後の記憶も曖昧だ。  しかし、やがては、曇りガラスを拭うようにして、頭の中の靄は薄れていった。意識がはっきりとなるに従い、記憶も呼び覚まされていく。  ぱちりと祐真は目を開ける。  見慣れた天井が見えた。ここは間違いなく自分のアパートの部屋だ。古くて安い1Kの部屋。実家ではない。  眠気の残滓が頭から離れ、ようやく祐真は完全に覚醒した。  祐真は、ベッドの上で体を起こす。床を見ると、敷いてあった布団は片付けられ、部屋の隅に畳んで置いてあった。  十畳ほどの部屋の向こうに、ガラス戸で仕切られた板張りのキッチンがある。そこで、ガラス戸越しに、人影が動いているのが確認できた。     
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