家庭教師 二

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「先週の続き。四八ページの二だったっけ」  いつものように数学の授業を始めようとした日、ヒサクニが言う。 「ねー先生。どうして人を殺したらいけないんですか」  僕は、不意に投げやりな気分になった。  こんな疑問を退屈だとは思わない。  下らないのは自分では調べずに他人に答えを求め、安易にそれを信じる姿勢だった。 「誰がそう言った?」 「え、」 「どこにそう書いてある」 「法律が…法律で決まってるじゃん」 「そうなの?ほら。確かめて」  一冊の本を鞄から取り出してヒサクニに手渡した。  ズシリと重く厚い、岩波ポケット六法だった。  法学を学んでいる僕でも普段から持ち歩いたりはしない。ゼミの帰りだったからたまたま持っていただけだ。 「殺人は刑法の第一九九条だよ」  ヒサクニは初めて見る本に目を輝かせて熱中するフリをしながら、渋々、薄いページを繰ってゆく。  たどたどしい様子を見ても、普段から辞書の類を捲り慣れていないのは明らかだった。部屋の本棚には従兄弟が使っていたという国語辞典や漢字辞典があるというのに。  彼はたっぷり五分かけて目的のページを見つけた。 「人を殺してはいけないと、書いてあるか」 「や、でも普通に」 「普通ってなに?」 「…いや…」 「君はどう思う」 「……」
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