第3話 惹かれる幻想

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そう呟きながら翔は部屋の電話に手をかけてどこかに電話をかけた。 (プルルルルル…) 「翔様、何か御用でしょうか?」 執事が翔に聞いた。 「車を1台出して欲しい」 すると、執事は焦りながら言った。 「翔様!今の身体ではお外になんて到底出せません!ましてや、車だなんて…」 翔は執事の言葉を聞いて電話を切った。 すると翔は、スーツケースを開き、出掛ける支度を始めた。 「あの言葉がどうしても気になる…」 翔はそう言いながら机に書き置きを残し重たい扉を開けて出て行った。 翔は宛もわからず外に行き、強い匂いを辿りながら歩くとある場所に着いた。 「ここは…」 そこは翔と聖が初めて出会ったスクランブル交差点に着いた。 信号が青に変わると人が交差をするように信号を渡り始めた。 人混みの流れに任せながら歩いていくと、翔は手を捕まえた。 「俺は拒んではないんだけどな?」 翔は人混みの中に紛れ込んでいた聖の手を握って言った。 「どうして君が?!」 翔は聖の手を引っ張りこの前と同じホテルに連れて行った。 「話はホテルで聞くことにする」 聖は嫌がりながらも翔の力強く握る手を離せなかった。 聖は翔に連れられるままホテルの部屋に入った。 翔は扉を閉めると真っ先に聞いた。 「何があったんだ?昨日と違うけど…」 聖は翔の質問に答えることなく自分の唇を噛み締めながら俯いた。 翔は唇から血が出るほど噛み締める聖の姿を見て自分のズボンのポケットからハンカチを出して言った。 「はい…何があったか知らないけど…苦しいんだろ?」 聖はハンカチを差し出す翔を見つめて言った。 「あなたの目的はなんですか?私に恩を売って何が欲しいのですか?情報ですか?」 すると、翔は柔らかな顔で言った。 「気になっただけだよ…」 すると、聖は翔の肩を持ちながら激昴した。 「気になった?!それだけで私に近づく人なんていない!何が目的なんだ!!」 すると、翔は聖のことをギュッと抱きしめ言った。 「目的はただこうしたくなったから君を探しに来ただけ…」 聖はギュッと抱きしめられ言葉を失った。 翔は聖に言った。 「地位?名誉?そんなもの要らない…つまらないからな、それに恩を売るつもりも情報なんかいらない…金はもうあるからな…」 そんな翔に聖は聞いた。 「なら何故…?」 すると、翔は言った。 「君と僕は同じはずだよ?だからあの場所にいたんだろ?」 聖は今までの事を思い出しながら2人は同時に言った。 『愛されたかった…』 そういいながら2人はベッドに倒れ込んだ。 翔と聖は頭が真っ白になるぐらい激しく抱き合った。 聖と翔は互いに出会った時の事を思い出していた。 「(君との出会いは突然で、最悪で、ここで終わりだと思った…けれど、現実に戻って気づいた…ここにいてもただ寂しく死ぬだけだと…だから僕は愛してくれる場所にいたかった……だから!)」 「(私があなたに声をかけたのはほんの小さな興味だった…惹かれる匂いにつられるままあなたを追いかけて偶然を装ってあなたを連れ去った…冷たいあなたからは私と同じ雰囲気がしていた…けれど、名刺を見てそんなはずはないと思い、現実に戻ると愛などどこにもなく…ただ寂しく佇むしかなく現実から目を逸らしたくてあの交差点にいた…そして今度は私が連れ去られた…その時に私は嬉しかった…また会えた…また愛して愛される…だから…)」 翔と聖は見つめ合いながら互いに言った。 『愛してる…』
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