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あかい。
夕陽に染まった空も。骸を糧として燃え盛る炎も。人の血を吸い込んだ大地も。
それ以外色を失ったような世界の中、血塗れた鎧を纏った奴らが獲物を求めて歩を進める。
悲鳴が、絶叫が、泣き叫ぶ声が、何重にも重なっておぞましい交響曲を奏でている。
老若男女問わず奴らの刃に倒れた者達を飲み込んだ、赤黒い炎が肌を焦がす。
いつの間にか死のシンフォニーは止み、奴らは炎のステージに追い立てられた最後の獲物を取り囲む。
煤と鮮血と涙に塗れた少女を庇うように、兄に譲られたチャンバラ用の木刀を構えた黒髪の少年。
寄り添う二人を囲む輪が、焦らすようにゆっくりと狭まっていく。
やがて、少年の方が耐え切れなくなったように駆け出した。
「うわああああああああああッ!」
悲鳴と大差ない雄叫びを上げながら振り下ろされた木刀を、しかし奴は容易に掌で受け止める。
そのまま力任せに少年の手から毟り取った木刀を、背後に投げ捨てると、木刀はたちまち炎に巻かれ、跡形も無く消滅した。
呆然と立ち尽くす丸腰の少年の後頭部に、奴は剣の鞘を叩き入れる。
呻き声を漏らしながらくずおれる少年に何を思ったのか。兜に覆われた顔からは、奴がどんな表情をしているのかは分からない。
「・・・・・・こやつ等を連れて行く」
ただ、兜の奥から発せられた金属質な響きを纏った命令に、奴の後ろに控えていた兵士が進み出ると、少女と少年に幾つもの手が伸ばされる。
兵士は籠手に包まれた手で乱暴に少女の髪を鷲掴みにし、巨大な皮袋に入れようとするが、少女は泣き叫びながら滅茶苦茶に暴れる。
「嫌ぁッやめて!コリウス!!」
兵士の腕を縫って伸ばされた少女の手に向かって、髪を掴まれて空中に吊り上げられた少年も、こめかみから血を流しながら応えるように手を伸ばす。
「ミ・・・・ぃ・・・・・・・・シャ・・・・・・!」
しかし無情にも兵士は、抵抗らしい抵抗をできない少年を容赦なく袋の中に突っ込み、口を縛って背中に担ぐと、待たせておいた漆黒の馬にひらりと跨る。
手綱を打ち、嘶きを上げる馬の腹を蹴ると、馬は炎をも恐れずに駆け出す。
「コリウス―――――――ッ!!」
漆黒の影に向かって絶叫を上げる少女に上から袋を被せ固く口を縛るが、それでも少女はもがき続ける。
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