プロローグ

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 持ち上げられる浮遊感に背筋が凍りついた瞬間、袋越しに兵士の鈍い呻き声が伝わった。  次いで、襲い掛かる落下感に思わず悲鳴を上げると、唐突にがっしりとした両腕に抱きとめられる。  そっと大地に下ろされると、目の前がパッと開けた。  少女が見たのは切断された袋の口と、片膝をついた剛毅な風貌の男。そして、男の手に握られる炎を映した真っ赤な大剣。  周囲では白銀の鎧を纏った兵士が、血塗れた兵士と剣を交えて戦っている。  思わず放心していた少女だが、ハッとして男に言い募った。  「コリウスが、男の子が、連れて行かれて、早く助けないとっ」  少年の連れ去られた方角を指差す少女の言葉に、顔色を変えた男が背後に控えていた青年に目配せをすると、栗色の馬に飛び乗った青年は瞬く間に姿を消す。  「もう大丈夫だ。怖かったなあ。すぐ助けに来れなくてごめんなぁ」  腰の鞘に剣を納めた男がぽんぽんと優しく頭を叩くと、少女は張りつめていた糸が切れたのか、顔をくしゃりと歪ませ、男の胸に飛び込んだ。  「ぁあぁああ、うああぁあああ、ぁあああああぁああああああああああッ!!」  胸当てに額を押し付け声を上げて泣き叫ぶ少女に、瞠目していた男はぎこちなく腕を動かすと、壊れ物を扱うようにそっと、優しく少女を抱き締めた。
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