養父の気苦労

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 ランプに火を灯し部屋着に着替えて一息ついていると、外から控えめなノックが聞こえる。  「はい。どうぞ」  部屋の主の許しを得て入ってきたのは、トレーを抱えたミーシャだった。  「おお、ミーシャ。帰っておったか」  声に歓喜を滲ませるガルトに微笑むと、ミーシャは深く一礼する。  「お帰りなさいませ、養父様。お茶の用意が整っていますが、お召し上がりになられますか?」  すると、ガルトは少し寂しそうに眉尻を下げた。  「そう固くなるな。と、言ってもそなたには仕方ないのだろうな」  「申し訳ございません。職業病みたいなものですから・・・・・・」  ミーシャが目を伏せると、「茶を貰おう。注いでくれるか?」とガルトが気を使って話しかける。  「はい、喜んで」  にこっと口角を上げ、ミーシャはリアムにするようにガルトにハーブティーを淹れる。  カップに口をつけたガルトは、爽やかな香りのするハーブティーをがぶりと飲み干すと、片方の眉を上げてヒョウキンな顔を作る。  「ミーシャの淹れる茶は誠に美味いなぁ。こんなに美味い茶を毎朝飲んでるとは、リアム様に嫉妬してしまいそうだ」  慣れない軽口を叩いてみたが、ミーシャがくすっと笑ってくれたので柄にも無くほっとする。  「それで、今度はいつまで居られるんだ」  「三日ほど、お休みを頂きました」  「そうか・・・・・・。リアム様はお元気か?」  「はい。養父様によろしく伝えるようにと」  「そうか・・・・・・」  ついに途切れてしまった会話に、ガルトは深く溜息をつく。  そして、真っ直ぐにミーシャの瞳を見据えると、胸に抱えた重い報せを吐き出した。  「ミーシャ。そなたにはもう分かっているかもしれないが、騎士団にはコリウスなる人物の情報は届いていない・・・・・・すまないな」  思わず付け足した謝罪の言葉を、ミーシャは首を振って否定した。  「いいえ。養父様が謝ることは何一つございません。お忙しい中コリウスの情報を集めて下さって、ありがとうございました」  もう一度頭を下げると、「失礼します」と言ってミーシャは部屋から出て行ってしまう。  ガルトは短く揃えた短髪を掻き毟ると、再び溜息をつき、椅子の背凭れに倒れこむ。  剛毅と評される事の多い顔を片手で覆うと、あの炎の日へと想いを馳せた。
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