2人が本棚に入れています
本棚に追加
ランプに火を灯し部屋着に着替えて一息ついていると、外から控えめなノックが聞こえる。
「はい。どうぞ」
部屋の主の許しを得て入ってきたのは、トレーを抱えたミーシャだった。
「おお、ミーシャ。帰っておったか」
声に歓喜を滲ませるガルトに微笑むと、ミーシャは深く一礼する。
「お帰りなさいませ、養父様。お茶の用意が整っていますが、お召し上がりになられますか?」
すると、ガルトは少し寂しそうに眉尻を下げた。
「そう固くなるな。と、言ってもそなたには仕方ないのだろうな」
「申し訳ございません。職業病みたいなものですから・・・・・・」
ミーシャが目を伏せると、「茶を貰おう。注いでくれるか?」とガルトが気を使って話しかける。
「はい、喜んで」
にこっと口角を上げ、ミーシャはリアムにするようにガルトにハーブティーを淹れる。
カップに口をつけたガルトは、爽やかな香りのするハーブティーをがぶりと飲み干すと、片方の眉を上げてヒョウキンな顔を作る。
「ミーシャの淹れる茶は誠に美味いなぁ。こんなに美味い茶を毎朝飲んでるとは、リアム様に嫉妬してしまいそうだ」
慣れない軽口を叩いてみたが、ミーシャがくすっと笑ってくれたので柄にも無くほっとする。
「それで、今度はいつまで居られるんだ」
「三日ほど、お休みを頂きました」
「そうか・・・・・・。リアム様はお元気か?」
「はい。養父様によろしく伝えるようにと」
「そうか・・・・・・」
ついに途切れてしまった会話に、ガルトは深く溜息をつく。
そして、真っ直ぐにミーシャの瞳を見据えると、胸に抱えた重い報せを吐き出した。
「ミーシャ。そなたにはもう分かっているかもしれないが、騎士団にはコリウスなる人物の情報は届いていない・・・・・・すまないな」
思わず付け足した謝罪の言葉を、ミーシャは首を振って否定した。
「いいえ。養父様が謝ることは何一つございません。お忙しい中コリウスの情報を集めて下さって、ありがとうございました」
もう一度頭を下げると、「失礼します」と言ってミーシャは部屋から出て行ってしまう。
ガルトは短く揃えた短髪を掻き毟ると、再び溜息をつき、椅子の背凭れに倒れこむ。
剛毅と評される事の多い顔を片手で覆うと、あの炎の日へと想いを馳せた。
最初のコメントを投稿しよう!