養父の気苦労

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 今から二十年ほど前。領土を巡って、王国と帝国の間に戦争が勃発。数え切れないほどの犠牲者を出した戦争は、消耗した分を補うため、十年後には冷戦状態へと陥っていた。  その最中、国境付近に位置する集落が帝国の傭兵団に襲われ、住民のほとんどが死亡。集落に放たれた炎は、遠く離れた王都からも確認され、王国の人々に戦争の恐怖を植え付ける篝火となり、帝国の士気を上げる狼煙となった。  王国が保有する騎士団が駆けつけたときには既に手遅れの状態であり、一人の少女を保護することしかできなかった。  その少女がミーシャ。あの惨事の唯一の生き残りである。  攫われたコリウス少年は騎士の一人が追いかけるも間に合わず、それ以来行方不明者として情報を募っている。  騎士団長であるガルトは、ミーシャを自分の養女として迎え入れ、王国の庇護下に置いた。  そんな親子のもとに、国王からお声がかかったのはミーシャが十三になった時のことだった。  国王から伝えられたのは、ミーシャに年の近い王子リアムの遊び相手になってくれないかという誘いだった。  丁度思春期を迎えた娘の扱いに困っていたガルトには渡りに船だったが、流石に元平民のミーシャと王子のリアムを引き合わせるわけにはいかない。  両者の話し合いにより、ミーシャはリアムの使用人として城に雇ってもらうこととなったのが二年前の話。  そして今、ミーシャは城に住み込みで働き、年に何度か休暇を貰ってガルトの元に顔を出すような生活を続けている。  しかし、これが彼女にとって幸せだったのかは定かではない。  年々余所余所しくなる言葉遣いに、とってつけたような微笑。  あの炎の日が、彼女がガルトに心を許した最初で最後の瞬間だった。
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