0人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女が笑顔でそういってくれた。こうして僕は絵画コンクールで授賞したんだな、という実感を得た。僕が照れ笑いをしながら「ありがとう」というと、「これは記念品です!どうぞ」といってホットコーヒーをくれた。近くの自販機で買ってきてくれたのだろう。まだ温かい。僕はそれをありがたく受け取って、ふたを開け、一口飲んだ。これはお酒ではないが、勝利の美酒というのはこのような味なのだろうと思った。
彼女は僕が自転車で来なかったことに気付くと僕にその旨を伝えてきた。
「どうして自転車じゃないの?」
と。僕は初め、このまま散歩に連れ出そうと思っていた。だけど12月の空気はあまりに澄んでいて冷たかった。僕はともかく彼女に風邪をひかせてはいけないと思って、
「パンクしちゃったからだよ」
と答えた。彼女は優しく笑って
「文也くんらしくないなぁ」
といっていた。彼女は僕が自転車に乗ることが好きで、愛車を大事にしていることを知っていてこう答えたのだろう。
僕はそんな楽しい会話を終わらせるのは辛かったけど話を終わらせることにした。風邪をひいちゃ大変だからね。べ、別に誘う勇気がなかったからじゃないんだから!!
「それじゃもう帰るよ」
僕がそう言うと彼女は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。彼女が豆鉄砲をくらっても驚くだろうなと彼女の顔を見ながら思った。ちなみにノミの心臓の僕が豆鉄砲をくらっても驚くと思う。僕は「バイバイ」と言って家に帰ろうとすると、
「待って!このまま散歩に行こうよ!」
彼女のその一言に今度は僕が豆鉄砲をくらった。
最初のコメントを投稿しよう!