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橋に着いた。夜の橋はあまりに綺麗で僕は言葉を失ってしまった。鋼橋は月の光に照らされて、純白に光っていた。人工的な電気に照らされているせいで一段と綺麗に見えるのかもしれないが、それを差し引いても十分に惹き付けられた。不意に彼女が
「私って性格悪いね」
って言った。どういうことか大体見当はついている。彼女は振った僕と二人きりで出掛けて、振られた僕に一種の夢を見させるようなことをしている、ということに対して言っているのだろう。
「本当に莉子は性格が悪いよ」
僕は冗談を含んだ言い方で言った。でもそんなこと微塵も思っちゃいない。実際、僕はそれでもよかった。夢を見させてくれている。それだけでいい。だってこうした機会があれば彼女、莉子を振り向かせるチャンスはできるから。そうとも、俺は諦めが悪い。
橋からの帰り道は少し遠回りをして帰ろうということになった。彼女がそういったのだ。僕としてはこの夢のような素晴らしい時間が永く続くなら何でも構わない。
しかし、幸せな時間とは長くは続かないものだ。彼女の電話が鳴り響き、彼女は電話に出た。要件を要約すると、親とけんかして家にいたくないから泊めてほしいというものだった。僕は彼女を恨んだ。多くを望まないで、僅かな幸せを噛み締めている僕をなぜ地獄に突き落とすような真似をするのかと。しかし、そうやって頼りにされる彼女をより好きになったことは言うまでもない。
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