1.滅びた世界

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 屋上に出ると大量に太陽光パネルが整列していた。 「ねえクド、こいつらは使えるの?」  確認してみる、と返事をした犬型ドローンはパネルから基部に繋がったコードや計器類を調べていたが、すぐに首を横に振る。バッテリィの存在は確認できなかったのだ。それでも一応全てを調べてみると一割程度のパネルで辛うじて発電システムそのものは生き残っていた。ただそれらがどんなに高性能であったとしても向こう百年は発電することは叶わない。そう推定されている。ユーリィは当時の状況をデータでしか知らないが、完全防護服と暗視ゴーグルなしに外を出歩けるようになったのがこの五年程と言われていた。 「自家発電機構が存在する可能性を希望する」  そう言って屋上の縁まで行くと彼は首をぐるりと動かして周辺状況を観測した。赤外線センサで不審な熱源でも感知できれば、そこに生命活動がある可能性も生まれる。ただクドの場合は電源に類するものが存在していることを願ってやっているのだろう。 「省エネモードに移行した方が良い」 「何だいクド。もうエネルギィ切れかい? 最近燃費性能が落ちているんじゃない?」  自分の方を見た犬型ドローンは既にモードを変更したようで、目の発光が青色に変化して薄くなり、何も言わずにドアへと歩いて向かう。  仕方ないな。そう独りごちると、ユーリィは彼に続く。ゴーグルに時刻を呼び出すと、標準時間で午前九時と表示された。 「クド」  思わず声を掛け、現在地での時刻への変換を頼もうとしたが彼は既にドアを開けて階段を降り始めており、仕方なく変換プログラムを利用して今がここの夕方なのだと知った。けれど空を見上げても変化のないグレィの分厚い雲が覆い、時折紫の稲光が縦横に走っているのが確認できるだけだった。  寝床は職員宿直用の部屋を利用することにして、ユーリィは他に生きている設備がないかクドと手分けして探した。  人はいない。住んでいる動物もいない。水道や電気は当然通じていないし、非常食の蓄えも見つけられなかった。  だからといって落胆はない。記録士にとっては何もないのが日常だからだ。本部に連絡を取り、定期的に空輸ドローンで補給を受ける。そうやってこれまでユーリィたちは活動を続けてきた。 「クドはどうするの?」  しばらくの間この学校をベースキャンプとすることに決め、宿直室に戻ってくる。クドは何も答えずにパイプベッドの下で四肢を横たえて目のライトを完全に消した。寝る、ということは犬型ドローンに必要ないが、無駄なエネルギィ消費を抑える為に活動が難しくなる夜の時間帯にはスリープモードにして大人しくしておくのだ。予備バッテリィを携帯しているものの、いつそれが必要になるとも分からない。無駄遣いを抑えることも記録士の大事な務めだった。 「拗ねた訳じゃないって分かってるけど、返事すらないのは流石に味気ないね」  ユーリィはベッドに座り、バックパックから一日分のカロリーと栄養素を固めた歯が折れそうなスティックを取り出す。味はない。必要最低限のエネルギィ補給用で音を立てて齧りながらゴーグルに小説を呼び出した。文章のみで構成されたメディアというのは軽量でストレージに入れて持ち運ぶにちょうど良い。最近はかつて古典と呼ばれていた時代の小説をよく読む。今日はジュール・ベルヌにでもしようかと作家リストを開いた。
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