3.待ち続ける女性

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    6  現地の時刻で夕方に近い頃合いだった。  学校の備品倉庫を発見し、そこにあった自家発電機を動かしてみるというクドと分かれ、ユーリィは再び図書館を訪れていた。玄関まで歩いてきたところで瓦礫で埋もた表示板を見つけ、この図書館の利用時間が十八時までだと知った。あと一時間もすれば彼女と会えなくなるかも知れない。ただ霊的回路現象は不安定な存在で、既に消失している可能性も考慮しつつ彼は玄関を潜った。 「ユーリィさん、ですね」  入ってすぐ正面で、眼鏡の彼女は立っていた。 「ええ、はい」  自分の名前を口にしたことに多少驚きはあったが、昨日会話したことで回路に若干の影響があったのだろうと納得させる。大部分の霊的回路現象は同じ言動を繰り返す機能しか持たない、とレポートには上がっていた。 「あの、アンドレ・ヤンさんは本を借りに来ましたか?」  スカートの前で両手を合わせた彼女はユーリィの言葉が理解できなかったのか、じっと前を見たまま黙り込んでいる。現地語への翻訳が上手くいっていないのだろうかと思い、再度丁寧に発音して変換を試みた。 「ああ、アンドレ・ヤンさんですね。彼はまだ帰ってきていません。明日にならないと地球に戻ってこないんです」  昨日も”明日”と言われたが彼女の中ではまだその明日が来ていないのだろう。霊的回路現象にはよくそういったことが起こった。というよりも時間という概念から逸脱していると言った方が良いかも知れない。ここは多少強引な手段を使ってでも貴重な現存する最後かも知れない本を手に入れるべきか逡巡するが、会釈をして書架の方へと向かった彼女を見て、その考えの採用を一旦見送る。 「あの、すみません」 「何でしょうか」  彼女は振り返ることなく本棚が本来立っていた場所で指差しをしながら何かの確認をしている。 「こちらの図書館について、少し教えてもらえますか?」 「図書館について、ですか?」 「はい」  彼女は作業を中止してユーリィの方を向き、(あご)に人差し指を当てて少し考え込む素振りを見せると、 「何についてお調べしましょうか。知りたい方のお力になるのが、わたしたち司書の仕事です」  そう言って微笑み掛けた。
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