12人が本棚に入れています
本棚に追加
「天網恢々疎にして漏らさず、か」
「たいちゃん、難しい言葉知ってるじゃない」
「まあ、ね。だけどなあ……」
愛之助は天井を見上げた。
「何か問題?」
「晶子さん言ったとおり、楓さんが敬之さんの死体を運ぼうとしてたとすると……どうも引っかかるんだよね」
「何が?」
「事故が起きたときの、楓さんの態度だよ。晶子さんが話してくれたとおりだったとすれば、追突された楓さんは怒って車を飛び出すと、大声で喚き散らして、自分でトランクを開けてる。これって変じゃないかな。わざわざ敬之さんの死体を追突してきた男や野次馬たちに見せつけているみたいでしょ」
「そう言われれば……そうよね」
「こっそり死体を運び出して、人知れず処分してしまおうと考えてる人間が、そんなことしないんじゃないかなあ」
「たしかに、そうかもしれないわ。でもじゃあ、どういうこと? 楓は本当に自分が運転している車のトランクに亭主の死体が詰められていることを知らなかったってわけ? 彼女は敬之の死と無関係ってことなの?」
晶子が勢い込んで問いかける。しかし愛之助の表情は、煮えきらないものだった。
「そう断定したいところなんだけど、それはそれで、ちょっとなあ……」
「いつものたいちゃんらしくないじゃない、どうしたのよ?」
「いや、まだよくわからないことが多すぎるんだよ。キーを誰が持ってるのかって問題がクリアになってないとね」
「キーって?」
「楓さんが運転してた車のキーだよ。車のトランクを開けるには、たしかトランクにキーを差し込んで開けるか、運転席にあるトランクレバーを引くか、ふたつしか方法がない……そうだよね?」
愛之助は幾分自信なさそうに訊いた。
最初のコメントを投稿しよう!