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「ええ、そうね」
晶子が頷くと、彼はほっとしたように言葉を続ける。
「どっちにしても車のキーは必要だよね。だから敬之さんをトランクに詰め込んだ人間は、その車のキーを持ってなきゃならないんだ」
「あ、そうか」
晶子は得心したように頷く。
「その車、楓さんのものなの?」
「夫婦共用だって。普段は敬之も楓もバスや地下鉄を使って通勤してるから、車は休日にしか使わないみたいね。でも楓は買い物か、今日みたいに実家へ行くときにしか使わなかったんだって。たいていは敬之が使ってたそうよ。休みの日に釣りに出かけたりして」
「敬之さんは釣りをやってたの? 何釣りかな?」
「さあ……それが何か、事件と関係あるの?」
「いや、単に興味があっただけ。僕も中学の頃、ちょっとだけ釣りをやってたんだ」
「へえ、たいちゃんって多趣味なのねえ。いいわ、釣りのことも調べとくわ」
「でも事件にはほんと、関係ないかもしれないよ」
珍しく愛之助が自信なさそうに言うと、
「ついでに訊いとくだけよ。まずは高内家の車のキーを持っているのは誰かってことを確かめるわ」
「敬之さんが持っていたはずのキーの在り処もね。彼、キーを持ってなかっんでしょ?」
「彼が持っていたキーホルダーには、車のキーはついてなかったわね。別にしていたのか、あるいは盗られてしまったのか、いずれにせよ調べるわ。他に調べておいたほうがいいことってある?」
「そうだな……その車が置いてある駐車場だけど、誰でも出入りできる位置にあるのかどうか、こっそり死体を運び入れたりすることが可能かどうか、それを知りたいんだけど」
「あ、それなら調べるまでもないわ。高内家の駐車場は家の前にあってね、別に柵とか門とかで区切られてもいないのよ。だから誰でも車には近づけるわね」
「ああ、そうなのか。わかった。じゃあ、とりあえずはそれだけでいいよ」
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