1/7
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

  

 まったく、この街の構造はナンセンスだ。  頭上を高速道路が覆い、その下の狭苦しいスペースにこれでもかと雑居ビルが地面に突き刺さっている。道沿いに派手なハッピを来たキャッチのお兄さん。コンビニの前で煙草をふかす人。仕事帰りの一杯を探して彷徨う会社員。  車と人とビルがごちゃ混ぜに詰め込まれ、息をつく隙間もない。  混沌とした金曜日の道をすり抜け、やがてその一角で私は足を止めた。ビルとビルの間にエレベータの入り口と郵便受けがねじ込まれ、壁の塗装はひび割れている。色褪せたエレベータのボタンを深く押し、四階で降りると、湿気を帯びた薄暗いエントランスが出迎えてくれる。  そして私は、その奥の黒い扉を開けるのだ。  ミラーボールがちらちらと光を投げかけ、化粧の濃い女の子たちが一斉に振り向いた。 「いらっしゃいませー!」  彼女たちの大合唱に、私の頬が少し緩む。赤い小ぶりのウサギ耳を付けた女の子に案内され、生ビールで、と言ってソファー席に腰掛けた。 「美香子さん、おかえりなさぁい。今日もお仕事おつかれさまですー」 「ありがとう」  女の子は薄めのサワー、私は冷えたビールで、グラスからコチッと鈍い音を鳴らして乾杯した。  バニーガールバー『ROXIE HART』はこの街で唯一のオアシスだった。  私が入り口を開けたとき、客の一人がちらりと振り向いた。もちろん、ほとんどが男性客だった。若い女性客もたまに来て女子会みたいになる、とバニーちゃんの一人が話していたことがあるが、私は女性客に出くわしたことがない。  構うものか。  私みたいな三十歳のおばさんだって、ピチピチの若い子を眺めながらビールを煽って、癒されたいのよ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!