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それでも・・・
生きて行く為に2Kの公営住宅に引越すと
母は朝から晩まで掛け持ちで働くようになった
簡単に消えてしまった平凡な日々は
笑顔を作ることさえ忘れさせた
奨学金も申請すれば
なんとか大学進学の道もあったけれど
今の状況で進学するとは
・・・言えなかった
それに・・・
働きながら夜間に通う勇気も持ち合わせてなかった
自由登校になると
フリーペーパーで見つけた
中華料理屋さんでバイトを始めた
一番気に入ったのは・・・まかない付き
時給950円で4時間
暗い家に居るより何十倍も楽しい時間
「麻婆豆腐美味しかったなぁ」
四川山椒のピリ辛を思い出しながら
ひとり呟く
身体に染み付く油の匂いも意外に好きだった
進学校故に就職斡旋なんて皆無だから
とりあえず3月末までバイトをしながら
ハローワークに通えば良いと
自分なりに考えていた
。
駅前の駐輪場へ着くと
半地下へのスロープを下りる
・・・電車の振りも辛い
大学生になるからバイトを始めるのだと
少し見栄を張ったせいで
二駅分自転車を漕ぐハメになった
・・・こういう所は誰に似たんだろ
自虐的にため息を溢すと
マフラーと手袋を二重にして
芯から冷える夜道を急いだ
比較的明るい幹線道路沿いを
選んで走るものの
怖がりの私には恐ろしく遠い距離
その怖さを紛らすために
他のことを考えるようにした
・・・母さん明日来てくれるかな
カレンダーの赤丸に気づいてくれただろうか
二人きりの家族なのにここ最近は
お互いの忙しさで殆ど顔を合わせなくなった
それでも週に何度かは
言葉を交わしていたのに
この二週間は玄関の靴すら見ていなかった
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